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青色について

黒い竜巻

ライマン・フランク・ボーム著『オズの魔法使い』を読んだことがありますか。

アメリカのカンザスで暮らしていた主人公の少女ドロシーが、ある日、巨大竜巻に理不尽に家ごとのまれ、気がつくと不思議な国に飛ばされしまう。途方に暮れるドロシーだったが、知恵が欲しいカカシと心が欲しいブリキの木こりと勇気が欲しいライオンに出会い、一緒に旅をすることになる。
この3人(と、竜巻で一緒に飛ばされてしまった愛犬トト)と共に、願いを叶えてくれるというオズの魔法使いに会うため、エメラルドの都を目指す。

読んだことがありますかと、問いかけておいてなんなのですが、私は今まで一度もこの本を読んだことがない。
読んだことはないけれど、この本のことを折に触れて、とまではいかないが、取り止めもないことを考えている時などに、ふと思い出すことがある。

どうしてだろう。

正確にいうと、『オズの魔法使い』で思い出すのは、序盤に出てくる不吉な、天高く聳える黒々とした巨大竜巻のイメージだ。

私は思い出そうとする。でも思い出せるのはあの大きな竜巻と主要な登場人物くらいだ。
そして結局、「ああ、大きな竜巻が出て来るお話だったな」ということになる。
でも、思い出すのが『オズの魔法使い』のなかでも、どうしてあの大きな黒い竜巻なのだろうか。
『オズの魔法使い』は読んだことはない。けれども、竜巻は覚えている。

おそらく昔、映画か何かで観たことがあり、なんとなくのそのあらすじが頭の中に残っていたから、あるいはまた、ずいぶん昔に観たものだから、覚えているのは序盤の黒い竜巻のシーンだけだったから、というのは理由としてありえそうだ。

さして重要でもない事柄が急に頭の中にやってきて、しばらく止まってから、ふっとどこかに消えていく。とくになんの前触れもなく、唐突に、断片的なイメージを思い出す。そういうことがたまにある。

そう、たとえば青色についての話がそうだ。

あなたは何色が好きですか

あなたは何色が好きですか。

10人の人にこの質問をすれば、もしかしたら10通りの答えが返って来るかもしれない。
文字通り人は十人十色、好みなんて人それぞれ、ということになるかもしれない。

しかしそれと同時に、あなたはこう考える(はずである)。

色の好みも10や20の人に訊いてみても、みんなバラバラな答えしか返ってこないはずだ。
けれども、それが1,000や2,000だとどうだろう。あるいは10,000だと。
何かしら傾向のようなものが見えて来るかもしれない。そういった資料なり研究なり、何かないものだろうか。

次に、興味が湧いてきたあなたはネットを使ってこう検索してみる(はずである)。

「色、好み、統計」

ありました。もちろんすぐに見つかります。

それにしても世の中、色々な統計があるものだ。


というわけで、日本リサーチセンターが公開しているレポートが見つかった。 日本リサーチセンター「あなたの好きな色は?」(2019年9月調査) https://www.nrc.co.jp/report/190917.html

【実施機関:(株)日本リサーチセンター】 お分かりいただけただろうか(低声)。


圧倒的にどの世代、性別からも支持されている色があることを。そう、青色である。

私も仕事上、色については色々考えたりする機会がある。 この色とこの色の組み合わせはいいなとか、いまいちだなとか。でもそれらの判断は、ある程度、経験に基づく個人的な解釈に引きずられがちになる。もちろん、マーケティングの観点を考慮して色の選定をしたりするのだが、個人的な色の好みがちょくちょく顔を出す。 でも、こうやって統計上の結果を見てみると、色の好みの傾向が割とくっきり見えてくるのはなかなかに興味深い。色々(...しつこいですね)と考え込んでしまう。

この統計を見ていると、人には好む(あるいは好まざる)色の傾向というものが確かにあるんだということがわかる。 そしてここまできたあなたは、じゃあ、グローバル規模での色の傾向も当然あるかもしれないと考える。

検索窓に「world favorite color」などとカタカタと打ち込む(かもしれない)。 もちろんすぐに見つかります。 「Why is blue the world's favorite color?」 https://today.yougov.com/topics/international/articles-reports/2015/05/12/why-blue-worlds-favorite-color お分かりいただけただろうか(低声)。 どうやらグローバルな点から見ても、青は人々から広く愛されている色のようである。

他にも調べてみると、いくつも似たようなデータが見つかった。そしてどれを見ても青を好む人の割合が多かった(もちろんそうでない国もあるにはあった。例えばオランダなどがそうだ。でもそれはあくまで例外で、概ねみな申し合わせたように青がトップにきていた)。

世界的にみても、青色はみんなに愛されている色のようである。



風あるいは嵐の中

でもどうして青色なのだろう。おそらく何か理由があるはずだ。
あなたは理由を考えてみる。そしてそれらしい理由がいくつか思いつく。でもその後にすぐ、それらのどれもが根拠に乏しいことに気がつく。理由なんてなんとでも言える気がしてくる。それでも、とあなたは考える。キーボードにカタカタとそれらしい言葉を入れて調べてみる。

もちろん、全然見つからない。

まあ、考えて見れば(あるいは考えるまでもなく)当然と言えば当然のことなのかもしれない。ここまでくると、学問的な研究にまで足を突っ込み、空いているピースを一つ一つ論理立てて埋めていく作業が必要になってくるのかもしれない。膨大なデータと根気強く格闘する必要があるかもしれない。

少なくとも、誰もが納得する分かりやすい答えを、はいこれです、というふうには提示できるようなものでもなさそうだ。

オーケー。理由を見つけるのは諦めよう。
誰かが言っていた。答えは風の中だ。あるいは黒い不吉な竜巻の中だ。そういうことにしておこう。
世界は青が好きだ。でも理由はわからない。とてもシンプルだ。

私は時折『オズの魔法使い』に出てくる黒い竜巻を思い出す。そしてその竜巻は青色のことについてのあれこれを思い出させる。そしてそのイメージはしばらく頭の中にとどまってから、ふっとどこかに消えていく。思い出したことすら忘れてしまうくらい軽々と。

さて、あなたは何色が好きですか?


この記事はDigital Identity Creative Div. Advent Calendar 2021の3日目の記事です。
明日の担当は村上さんです。